John Mackey – ジョン・マッキー
アスファルト・カクテル |
●原題:Asphalt Cocktail
●グレード: 5
●演奏時間:約6分 ●第35回サマーコンサート [作曲者について] 1973 年オハイオ州ニューフィラデルフィア生まれ。クリーブランド音楽院でジョン・コリリアーノ氏に師事し、音楽学士号を取得。ジュリアード音楽院でドナルド・エルブ氏に師事し、音楽修士号を取得。世界中から注目されている新進気鋭の作曲家。1999 年から2003 年まで、パーソンズ・ダンスカンパニーの音楽監督を務め、現在はオーケストラやバレエ音楽祭におけるレジデント・コンポーザーを務める。彼の作品は、カーネギーホールやニューヨークセンター、シドニーのオペラハウスなど各国の主要ホールで演奏され、イタリア、日本、ドイツ、イギリスなどでも高い評価を得ています。また、アメリカ合衆国のシンクロナイズドスイミングチームが、彼の楽曲を演技に使用してアテネ五輪で銅メダルを獲得するなど、コンサートミュージックの枠にとどまらない作品を発表しています。ダンス、モダンバレエ、吹奏楽、オーケストラなど幅広いジャンルの作曲を精力的に行っていますが、日本では特に、日本で初演が行われた「翡翠」をはじめとする吹奏楽曲の作曲者として知られており、近年全日本吹奏楽コンクールで彼の作品が取り上げられることも増えています。 彼の楽曲の特徴として、従来の西洋芸術音楽の手法に、ロックやポピュラーといった異なるジャンルの要素及び、20 世紀の現代音楽の様式を組み合わせたクロスオーヴァー作品であること、そしてリズムの扱い方が個性的で卓越していることがあげられます。中でも、強弱記号とアクセント音の指示が非常に念入りになされていること、これが彼の作品の非常に大きな特徴といえます。 本日の演奏会では、彼の数ある吹奏楽作品の中から、「アスファルト・カクテル」「ファウンドリー」「レッドライン・タンゴ」の3曲をお送りします。畳みかけるような変拍子の中で、激しく大胆な鋭いサウンドと、繊細かつ抒情的なサウンドの両方が求められ、練習には大変苦戦しましたが、ジョン・マッキー作品の良さを皆様に十二分に伝えられるよう、精一杯演奏いたします。 [作品について] この曲は、ハワード・J・ゴルウィッツに個人的に委嘱され、ケビン・セダトーンとミシガン州立大学ウィンドシンフォニーへ贈られました。 演奏会のオープナーとして書かれたこの曲は、最初の小節から強烈なインパクトを持っており、「我々はここにいる︕」と叫んでいるような印象を与えます。鋭いトロンボーン、高らかに鳴り響くトランペット、そして曲全体を支配する打楽器群のクロスリズムと裏拍によって、作曲者がニューヨークに住んでいるときに感じた気概と攻撃性が表現されています。 四方八方から迫り来るトラック、曲がり角でスリップするタクシー…例えるならばそんな緊張感と闘争心に満ちた荒々しい状況を想像しながらお聞きください。 (第35回サマーコンサート) |
ファウンドリー |
●原題:Foundry
●グレード: 3
●演奏時間:約4分20秒 ●第35回サマーコンサート Foundry=鉄鋼工場 の訳通り、鉄鋼工場で鉄が製造されている様子をそのまま音楽で表現した楽曲です。 この曲の最大の特徴は何といっても多種多様な打楽器でしょう。打楽器奏者はどんな物でも「楽器」にできる、という考えのもとに、サラダボウルや積木など、楽器として通常使われないものが多数登場します。 どのような「楽器」を使いたいか、ではなく、どのような「音」を使いたいかといったマッキーが追及していることが如実に表れた楽曲であるといえます。 (第35回サマーコンサート) |
レッドライン・タンゴ |
●原題:Redline Tango
●グレード: 5
●演奏時間:約9分 ●第35回サマーコンサート この作品は、本来ブルックリン・フィルハーモニックの委嘱によるオーケストラ作品です。後に作曲者自身によって吹奏楽版に編曲され、2004 年に初演されたジョン・マッキー初の吹奏楽作品かつ彼の代表作の1 つです。タイトルのレッドラインには2 通りの意味が有ります。1つ目は「redlining an engine」、つまり車のエンジンが最大限まで回転している、という状態を表す言葉、そして2つ目はニューヨークのIRT 地下鉄路線、2 番線と3 番線を走る路線名を指しています。 この曲は大きく3つの部分に分かれ、前半はまさにエンジンがフル稼働している「redlining」な状態を表しています。16 分音符の細かいビートによって常に緊張感を保ったまま徐々に激しさを増していきます。中盤で激しさが頂点を迎えると、曲は大きく雰囲気を変え、気怠さすら感じさせるタンゴが始まります。そして再び最初の曲想に戻り、さらに激しさを増し、最後は弾けるようにして幕が閉じます。 均衡をぎりぎりのところで保っているような、緊張感あふれる演奏をお楽しみください。 (第35回サマーコンサート) |
タービン |
●原題:Turbine
●グレード: 6
●演奏時間:約9分 ●第45回定期演奏会 SCBDA(The Southeastern Conference Band Directors Association)からの委嘱により作曲された。世界初演はC.バードウェル指揮によるケンタッキー大学ウィンドアンサンブルによって行われた。 曲名である「タービン」とは回転運動によってエネルギーを生み出す機構であり、これを高温のガスによって回転させるものは「ジェットエンジン」とも呼ばれ、ほとんどの航空機の動力源として用いられている。全曲を通し、このエンジン機構はパーカッションの荒々しいアンサンブルで表現されている。 作曲者であるジョン・マッキーは飛行機に乗ることが苦手であり、苦手意識の克服のためにこの曲を書いたのだという。 冒頭の3分間は飛行機のエンジンがスピードを増し、滑走路を走り抜けるイメージをテンポでなく和声と旋律で表現している。そこから飛行機が離陸する場面になると、飛行機から見える美しい空の風景、そして脳裏に常に存在する、我々の命はこの巨大な機械に委ねられているのだという緊張感が上手く表現される。 美しくも、どこか荒々しく、緊張感のある独特な空の世界をお楽しみください。 (第45回定期演奏会) |
吹奏楽のための交響曲「ワイン・ダーク・シー」 |
●原題:Wine-Dark Sea : Symphony for Band
●グレード: 5
●演奏時間:約30分 ●第49回定期演奏会 新進気鋭の作曲家であるジョン・マッキーは、1973 年にアメリカ・オハイオ州に生まれた。 彼の両親は音楽家であったが、彼自身は正式な楽器演奏の教育を受けておらず、祖父から楽譜の読み方やコンピュータによる楽譜作成の手法といった実践的な手ほどきを受け、音楽の楽しさを知る。彼は特に吹奏楽作品において人気が高く、吹奏楽の作曲賞であるオストウォルド賞を二度受賞している。 今回取り上げる本作品は、テキサス大学内の音楽学校の創立 100 周年を記念して、同大学吹奏楽団の委嘱を受けて作曲された。初めての 30 分超大作に難渋した彼は、妻のアビーに相談し、古代ギリシャの吟遊詩人ホメロスの詩「オデュッセイア」に基づく標題交響曲とし た。彼らが再構成したストーリーを紹介する。 第1楽章:傲慢 (Hubris) オデュッセウスは、トロイア戦争で勝利をおさめ、大量の戦利品を積んで帰路についてい た。しかし積荷には「傲慢」も紛れていた。この楽章は彼の凱旋行進曲で幕を開け、続いて行く先々での略奪の場面が描かれる。傲慢の果てに神々の怒りを買った彼らは、最高神ゼウスによって船を打ち砕かれる。船は難破し、海にすべてが飲み込まれる。 第2楽章:儚い永遠の糸 (Immortal thread, so weak) 海岸に打ち上げられて生死をさまよっていたオデュッセウスは海の女神であるカリュプソーに出会う。そこは美しく永遠の命を持つ彼女が一人で寂しく住まう島だった。彼女は彼を献身的に看病し、愛し、7 年もの歳月を過ごした。しかし、オデュッセウスは募る望郷の思いを彼女に伝え、恩知らずにも彼女が与えたものの数々をあざける。彼女は傷心しつつ愛の証として織り続けていたタペストリーをほどき、その糸で再び船のため帆を織り上げて船や食料とともに渡した。彼女は彼を見えなくなるまで見送った。たとえ彼が振り向かずとも。 第3楽章:魂の叫び(The attentions of soul) 他の神々のオデュッセウスに対する怒りが収まっていないため、彼は帰郷の前に世界の果 てでいけにえを捧げなげなければならなかった。この楽章は暗闇に包まれた冥界の門が舞台 となっている。彼がいけにえにする動物たちの首を切ると、その魂が彼にまとわりついて彼の命を求めて誘惑してくる。そして冥界では英雄たちの魂さえも飢えて貪欲なことを知る。 最終的に予言者テイレシアスから帰郷の助言を受けた彼は、波のように押し寄せ、甲高く叫ぶ魂たちを振り払って冥界を脱出する。まだ暗闇の中ではあったが、オデュッセウスは前方に故郷の光を見出したのであった。 (第49回定期演奏会) |