David Maslanka – デイビッド・マスランカ
リベレーション 我を解き放ち給え |
●原題:Liberation
●グレード: –
●演奏時間:約17分 ●第31回サマーコンサート
この作品は、作曲者の仲田守氏が代表を務める日本管楽合奏指揮者会議が2010年に愛知県岡崎市で開催されるのを記念し、デイビット・マスランカ氏に共同委嘱された作品です。この作品はバンドにコーラスを加えた編成となっている特徴的な曲となっています。 作品が東洋の日本と作曲者自身がいる西欧の懸け橋となるよう、人類の普遍的な感情の「死者を弔う心」をテーマとしており、キリスト教のレクイエムの典礼文である「リベラ・メ」が歌詞に引用されています。 作曲者の作品の魅力であるリズミカルな音楽の作りを存分に活かしつつ、コーラスが加わることにより一層音楽に深みが増し、独特の奥行きが表現されている作品です。 (第31回サマーコンサート) |
交響曲第7番 |
●原題:Symphony No. 7
●グレード: 6
●演奏時間:約35分 ●第41回定期演奏会
この曲は、アメリカ人のデイヴィッド・マスランカ(1943~)が2004年に作曲し、作曲者と親交の深いイリノイ大学ウィンド・シンフォニー(指揮:スティーヴン・スティール)が世界初演をしています。全4楽章からなる今作品は「懐かしさ」をテーマにしており、各楽章で違う個性を出しつつも、どの主題も不思議と郷愁を誘います。
第一楽章「Moderate」は、作曲者の幼少の頃の思い出を基にしています。日曜日の夜の教会での夕拝で、修道女によってピアノが弾かれる光景を想起して作曲されたものだそうです。enthusiastically(熱心に)という指示があるピアノのソロから始まることからも分かるように、この楽章ではピアノが重要な位置を占めています。途中でゆったりとした曲調からいきなり力強いものと変わりますが、これは子供の空想のような夢想の彼方への旅立ちをイメージしたものとなっています。 第二楽章「Slow」は、19世紀から20世紀に成立したアメリカのフォークソングにありそうな曲、という設定で作曲されています。トランペットのソロから始まり、フルートのソロと引き継ぎ、木管を主体として終始明るく落ち着いた空気が維持されます。一度強奏を挟んだのち、再び心温まるフルートとピアノのデュオで終わりを迎えます。 第三楽章「Very fast」は、今までの楽章とは雰囲気をがらりと変え、速いテンポ、変拍子の多用、疾走感あふれる木管群の連符が相まって、暗いわけではなく、かといって煌びやかでもない、純粋なパワーが感じられるエネルギッシュな楽章です。この激烈なテンポは作曲者曰く、「混沌を制御するため」に指定されているそうで、終盤のJ.S.バッハのコラール作品”Du Friedensfurst Herr Jesu Christ”(Prince of Peace Lord Jesus Christ)からの引用は強烈です。めまぐるしい展開に最初から最後まで目が、いや耳が離せない楽章となっています。 第四楽章「Moderately slow」は、平和と癒しを祈る歌を主題として、Large Buddhist meditationbell、つまり仏具の鈴(りん)の音で静かに始まります。ユーフォニアムのソロが全体に散りばめられ、一度カタルシスを伴った盛り上がりを迎えた後、憂いを帯びたピアノのソロで静かにフィナーレとなります。
今作品で用いられている各楽章の主題は作者のオリジナルです。作曲者は、これらの主題に対して、「各主題は明るい面、暗い面どちらも持ち合わせており、夢の世界へと誘う」というコメントをしています。曲全体を通してピアノが大きくフィーチャーされている点は、作曲者の狙い通り「懐かしさ」を演出するのに一役買っていると思われます。 「交響曲第5番」、「LIBERATION~我を解き放ちたまえ」、そして今作品。当楽団では昨年の第40回定期演奏会から今演奏会にかけて、彼が作曲した曲目を演奏し続けてきました。一つとして同じ曲想はありませんが、今作品も含めどれも美しいメロディと鮮やかな曲調によってテーマである「普遍的メッセージ」が深く感じられる、作曲者の魅力が存分に詰まった作品に仕上がっています。 (第41回定期演奏会) |
交響曲第4番 |
●原題:Symphony No. 4
●グレード: 6
●演奏時間:約30分 ●第44回定期演奏会
作曲者のD・マスランカは、アメリカの吹奏楽界でトップクラスの人気と実力を誇る作曲家のひとりである。1943年アメリカ、マサチューセッツ州ニューベッドフォードに生まれ、オベリン音楽院でジョセフ・ウッドに作曲を師事、その後ミシガン州立大学で作曲を専攻した。マスランカは、吹奏楽作品だけでなく、室内楽、管弦楽、合唱作品など幅広い分野の作品を手がけている。
この交響曲第4番は、テキサス大学オースティン校ウィンド・アンサンブル、ステファンF オースティン州立大学バンド、ミシガン州立大学バンドの委嘱作品として、1993年に作曲された。 曲中では、最もよく知られたキリスト教音楽の一つである賛美歌 “Old Hundred”をはじめ、バッハのコラール“ Only Trust in g o d to Guide You” や “ Christ Who Makes Us Holy” など、いくつかの讃美歌がモチーフとして登場する。その優美なメロディーとは対照的に、各所で躍動感あふれるパッセージや、金管セクションと打楽器によるダイナミックな音楽、クラリネットによる特殊奏法などがあらわれ、曲に彩りをそえている。クライマックスは、管楽器の分厚いハーモニーと押し寄せる打楽器群が壮大なサウンドをつくりあげる。 繊細かつパワフルなマスランカ独特の音楽の世界をお楽しみください。 (第44回定期演奏会) |
交響曲第8番 |
●原題:Symphony No. 8
●グレード: 6
●演奏時間:約45分 ●第45回定期演奏会
作曲者について デイヴィッド・マスランカ(1943 – )は、アメリカ出身の作曲家で、現在までに交響曲や協奏曲、ミサ曲など数多くの吹奏楽曲をはじめ、管弦楽曲や合唱曲など様々な作品を発表している。特に交響曲は、2015年現在までに9番まで書かれており、そのうち1番と6番がオーケストラ、その他が吹奏楽編成である。そしてその全てが演奏時間30分から1時間の大曲ばかりで、吹奏楽編成の楽曲としては珍しいことである。さて、その最大の特徴は、曲の題材を聖書や聖歌に求めている点であろう。そのため、内容も宗教的かつ哲学的であり、背景的な知識がない者には難解な印象を与えがちである。しかしながら、体の内側から湧き上がってくるような響きや、圧倒的なサウンドを生み出すオーケストレーションは、そうした予備知識を持たない聴者の心も掴んで放さない。当楽団にとっては、昨年の定期演奏会で「交響曲第4番」を演奏し、再び今年も彼の交響曲を演奏するという、縁のある作曲家でもある。その独特の世界観を、今回も全力で表現したい。
楽曲について 「交響曲第8番」は、2008年に作曲された比較的新しい作品であるが、その題材はマスランカらしく、古い讃美歌やコラールにある。古くから知られている旋律を、現代的な響きで彩ることで、まさに過去と未来を結びつけるような壮大な楽曲に仕上がっている。1楽章では、自身のミサ曲の中から「グローリア」の旋律が引用されており、この楽章のみで1つの作品といっても過言ではないほど、激しさと繊細さの双方を兼ね備える充実した内容になっている。続く2楽章は、ルーテル教会の古いコラールである「イエスはわが喜び」をモチーフとしている。作曲者いわく「大きな幻想曲」というこの楽章は、サックス、オーボエソロによる優美だが物悲しい旋律を中心としており、途中でアレグロに突入するものの、全体として聴く者に夢の中にいるような印象を与える。最終楽章には、「ものみなこぞりて」のタイトルで知られる讃美歌の旋律が用いられている。(この讃美歌を、作曲者は特に気に入っており、他の作品でもモチーフとして引用している。)堂々たるヒロイックな旋律あり、じっくりと聞かせる厚みのある旋律ありと、フィナーレにふさわしい楽章となっている。 この交響曲は、何といっても、各楽章の演奏時間が14分、計40分を超える大曲であり、まずその規模の壮大さが大きな魅力だ。加えて、その内容も決して単調ではなく、聴者を飽きさせることは無い。演奏者にも高い技術が求められるが、それ以上に、いかに丁寧に音を紡いでいくかという繊細さが必要とされる。がなりたてるような荒っぽく、また浮足立った演奏ではなく、どっしりとした芯のある暖かな演奏をお届けしたい。 「過去から未来へつながる生命への讃歌」という作曲者の思いが伝われば、何よりである。 (第45回定期演奏会) |