Philip Sparke – フィリップ・スパーク
ドラゴンの年 |
●原題:Year of the Dragon
●グレード: 5 ●演奏時間:約13分10秒 ●第11回サマーコンサート、第18回サマーコンサート、第41回定期演奏会 この曲は、若いイギリスの作曲家フィリップ・スパークがウェールズの金管バンド「コーリーバンド」の創立100周年記念作品として作曲しました。曲のタイトルであるドラゴンも、ウェールズのシンボルであるレッド・ドラゴンからきています。その後「バーミンガム・スクールズ・ウィンド・オーケストラ」のために彼自身の手によって吹奏楽曲に編曲され、さらに世界中に広く知られるようになりました。 第1楽章 トッカータ 曲はスネアドラムとミュートをつけた金管楽器によって激しく開始され、たえず拍子感を変化させながら進行します。 第2楽章 間奏曲 この楽章は他の楽章とは正反対のゆっくりした楽章で、コールアングレなどのソロと、雄大なメロディーによって構成されています。 第3楽章 フィナーレ 木管の速い動きの旋律から始まり、中間部では各楽器のソロにより曲が進行します。曲はクライマックスに向かって次第に楽器を増し、華々しいフィナーレをむかえます。終楽章にふさわしく、劇的な演出を持った楽章です。 (第11回サマーコンサート) この作品はウェールズの金管バンド「Cory Band」の委嘱により、1984年に完成された。このウインド版は作曲者自身の手で1985年に完成された。 第1楽章「トッカータ」はモルト・アレグロで不気味に進行する情熱的な舞曲のような楽章。要所要所のアクセントが印象的で躍動感に満ち溢れた楽章である。 第2楽章「間奏曲」は印象的な下降旋律で始まる。直後レントとなり、コールアングレのソロへと移る。その後賛美歌のようなポコ・ピウ・モッソへ流れ、頂点へ向かっていく。 第3楽章「フィナーレ」はモルト・ヴィヴァーチェの躍動的な楽章、各楽器の細かい動きがテンポに乗り、途中いくつかのソロ部分を加えながら圧倒的なクライマックスへと突き進んでゆく。 (第18回サマーコンサート) 吹奏楽経験者でその名前を知らない人はいないというほど有名な作曲者、フィリップ・スパークの代表作品です。この曲はもともとブラスバンド編成の曲として1984年に誕生しました。ウェールズのブラスバンド、コーリー・バンド(Cory Band)の創立100周年記念委嘱作品として書かれたこの作品は大変技巧的で、演奏には相当な演奏技術が必要となります。 タイトルの「ドラゴン」はウェールズの国旗にも描かれている「レッド・ドラゴン」を指します。この「レッド・ドラゴン」はウェールズ地方と関係が深い、ケルト人の建国伝承に登場する水の神で、平和をもたらした神とされています。 第1楽章「Toccata」では、冒頭いきなり金管楽器とスネア・ドラムによる高速の打ち込みで始まります。この打ち込みのエネルギーを秘めながら、曲は終始力強く進んでいきます。音量の指示がpiano(弱く)であっても、音楽の緊張感が途切れることはありません。 第2楽章「Interlude」では一転、美しいトゥッティで緩やかに始まったのちイングリッシュ・ホルンによる独奏になります。ブラスバンド版ではトロンボーンの独奏ですが、吹奏楽版ではイングリッシュ・ホルンの独奏となり、より繊細にメロディが奏でられます。その後は全楽器による豊かな響きのコラールが姿を現し、冒頭の音楽に戻ったあと今度はフルートとE♭(エス)クラリネットにより先ほどの独奏の前半部分が演奏され、後半部分でまたイングリッシュ・ホルンに独奏が受け継がれます。 第3楽章「Finale」は、前楽章からアタッカ(楽章間で休むことなく、そのまま演奏を続けること)とともに、かなり早いテンポでスタートします。全楽章の中で、最も技量が必要とされる箇所です。早いテンポですが第1楽章とは異なり、非常に堂々たる音楽が進行していきます。中間部分は少人数ずつに分かれ演奏していきますが、音楽のスピード感は変わりません。そして終盤部分は音量、技巧ともに圧倒的な響きに支配され、曲はラストへ突き進んでいきます。 この曲は非常に高い演奏技術が要求される難曲ですが、一度聞いてしまうと病みつきになってしまうでしょう。スパークの最高傑作をぜひお楽しみください。 (第41回定期演奏会) |
アオテアロア ~長く白い雲のたなびく国~ |
●原題:The Land of the Long White Cloud “AOTEAROA”
●グレード: 5
●演奏時間:約12分30秒 ●第21回サマーコンサート フィリップ・スパークは、1951年イギリス生まれの作曲家で、日本でもよく知られています。最近は大作が充実する傾向が強く「月とメキシコのはざまに」(ブラスバンド作品:金管と打楽器のみの合奏形態で、一般に考えられている”ブラバン”とは異なる)「ダンスムーヴメンツ」「交響曲第一番『大地、水、太陽、風』」とたて続けに力作を発表して話題になっています。しかし、一昔前の彼の作品はブラスバンドから吹奏楽への自作の編曲作品が有名で、よく知られている「オリエント急行」「ジュビリー・オーヴァチュア」などはそういった作品です。 本日お送りしますこの作品もそのような作品群のひとつです。原典版は1980年ニュージーランドの第100回ブラスバンド選手権の課題曲として書かれ、吹奏楽編曲は1988年に行われていますので20年も昔のかなり古い作品であるといえます。 タイトルはマオリ族がニュージーランドのことを呼ぶ言葉の意味をそのまま使っていますが、特別な民族的いしきなどを曲中に持ち込むことなく仕上げられています。 曲は急―緩―急のスタイルで書かれており、長い序奏と短いコーダを伴っています。ゆったりとそして壮大に曲は開始され、序奏部はA―B―Aという形を成していて、それぞれのパートに山場がつくられているのでこれだけでも一つの曲のようになっています。Molto Vivace(とても活発に)と示された速い部分はマーチの様にもきこえますが、リズム的にひねられていて、飽きることなくきけます。遅い部分では、フルート、クラリネット、アルト・サクソフォーンのソロを経て、全合奏によるクライマックスを作ります。速い部分を短縮してくり返し、冒頭のファンファーレを再現したのち、一気に終わります。 あまり演奏される曲ではありませんが、初期のスパークのリズムのひねり、メロディーのききやすさが随所にみられる曲です。 (第21回サマーコンサート) |
オリエント急行 |
●原題:Orient Express
●グレード: 4.5
●演奏時間:約8分 ●第23回サマーコンサート 「オリエント急行」は、パリ~コンスタンチノープル間を走っていた豪華列車です。1977年に一度廃止されたものの、熱烈なリクエストにより、5年後には復活し、現在でもロンドン~ヴェニス間を約30時間かけて走っています。気になる費用は、片道1泊2日で約26万円です。 (第23回サマーコンサート) |
インヴィクタス |
●原題:Invictus
●グレード: 5 ●演奏時間:約10分 ●第24回サマーコンサート 昨年の『オリエント急行』(1987/1994)に引き続き、今年もスパークの作品を取り上げました。曲題の「Invictus」には「不屈」「征服されないもの」の意味があります。細かい動きを伴う「急」、情緒的な「緩」、というスパーク作品の典型的な構成ですが、「急」のどこか愁いを帯びた伴奏型が特徴といえるでしょう。 力強いテーマが金管楽器群より鳴り渡り、フルートによるソロが続いた後、独特の和音を用いた伴奏群が静かに動き出します。音楽は不安を湛えつつも広がりを見せ、絶えず動き続ける16分音符と、それに交差するように訴えかけるような旋律があらわれます。ひしめくような強奏の後に、ユーフォニアム、クラリネットの短いソロが続き、中間部へ。ゆっくりと、しかし確実に旋律が織り合わされていきます。一度静けさを取り戻し、冒頭のテーマが断片的にあらわれては消えますが、それらの断片はやがて中心に集まるようにして、冒頭部が力強く再現されます。それを受け継いで再び伴奏群が動き出しますが、そこにはすでに不安はなく、勝利を宣言するかのような金管群の旋律が響き渡ります。 (第24回サマーコンサート) |
宇宙の音楽 |
●原題:Music of the Spheres
●グレード: 6 ●演奏時間:約18分30秒 ●第27回サマーコンサート 1.t=0 2.THE BIG BANG(ビッグバン) 3.THE LONELY PLANET(孤独な惑星) 4.ASTEROIDS & SHOOTING STARS(小惑星帯と流星群) 5.MUSIC OF THE SPHERES(宇宙の音楽) 6.HARMONIA(ハルモニア) 7.THE UNKNOWN(未知) 作曲者については、あまりに有名なので、もはや説明はいらないであろう。イギリス生まれの、主に“ブラスバンド”の曲を書いている作曲家である。この『宇宙の音楽』も、もともとはブラスバンドのために書かれた曲である。 この『宇宙の音楽』は、“宇宙の起源”と“果て無き宇宙の深淵”について、作曲者本人が純粋に心惹かれたことを反映した作品である。曲名は、「万物の根源は数である」とする古代ギリシャの数学者ピタゴラスによって唱えられた、“宇宙は振動数比率が単純に整数倍である音程によって形成される純正な音階と同じ法則によって、その調和が保たれている”という理論から導かれている。ピタゴラスはまた、その音程比率は、太陽系の6つの惑星(当時は、肉眼で観測できた水星・金星・地球・月・火星・木星をもって6個と考えられていた)が太陽から隔てる距離に一致すると信じており、さらに「それぞれの惑星は固有の音を発し、絶え間なく“天上の音楽”を紡ぎ奏でている(ただし普通の人間には一切聞こえず、ピタゴラスだけがその調べを聴くことができた)」と論じた。加えて、古代ギリシャには“ハルモニア”という言葉があり、これは現代の“ハーモニー/和声”とは異なる、“音階”や“協和音程”を表すものであって、さらには、その完全美を極めたものとして宇宙の本質そのものを体現する言葉と考えられていた(当時紀元前500年頃は、歴史上最古の音楽形態である単旋律音楽しか存在していなかった)。この「宇宙の音楽」では、そのピタゴラスの理論による“6つの音”によって、作品内の各セクションの土台と“ハルモニア”が構成されている。 作品は、切れ目なく続く3つのセクションからなるが、まず冒頭は「t=0」を喚起するホルンのソロで幕を開ける。“t=0”とは、「宇宙の誕生(ビッグバン)の瞬間tには、時間・熱量・素粒子・重力・磁力・元素などすべてのものが無(ゼロ)であった」という、いま最も多くの科学者たちがほぼ確信している考えを表している。そしてそのソロのあとに、時間が生まれ宇宙が広がってゆく“ビッグバンその後”の描写が続く…あまねく森羅万象はたった1つの“点”の爆発からうまれたのである! 次の緩やかなセクションは「孤独の惑星」…地球についての黙示録である。太陽系内ほかのどの星にも起こらなかった奇蹟とも言える偶然が、地球の進化を“命を育む惑星”として導いてきた。そして今や我々は、遥かなる銀河に向かって毎日のように、他の知的生命体を探す調査を続けているのである。 宇宙空間のいたるところに出現する「小惑星帯と流星群」は、危険性があるものも無いものも選択の余地なく、地球に頻繁に迫ってくる…その情景を描写したあと、この曲は「未知」への問いを内に秘めながら、壮大なエンディングへと向かう。我々が開発を推し進めてきた大宇宙への飽くなき探求は、我々の将来に更なる文明の発展をもたらすのか、それとも破滅の時を暗示するのか… (第27回サマーコンサート) |
ハノーヴァーの祭典 |
●原題:Hanover Festival
●グレード: 4 ●演奏時間:約8分 ●第32回サマーコンサート この作品は、アメリカ、ニュージャージー州のハノーヴァー・ウインド・シンフォニーの創立15周年を記念して委嘱され、1999年10月27日に同バンドによって初演されました。 曲はブラスセクションの荘厳なファンファーレから始まって、木管セクションが加わった後に、一度コラールに落ち着きます。再びファンファーレに戻ると、その後エネルギーを持った活発な曲が展開されます。後半になると、初めのファンファーレが活発な動きと共にもう一度生き生きと演奏され、最後はスピード感のある激しいコーダによって曲が締めくくられます。 大変エネルギッシュであり若々しさが溢れる一方、どこか懐かしさを感じさせるようなメロディーが散りばめられたこの曲を是非お楽しみください。 (第32回サマーコンサート) |
ウィークエンド・イン・ニューヨーク |
●原題:A Weekend in New York
●グレード: 5 ●演奏時間:約7分40秒 ●第44回定期演奏会 ワシントンD. C. の合衆国陸軍野戦軍部楽隊トーマス・パルマティア大佐の委嘱を受け、イギリスの作曲家フィリップ・スパークによって作曲されたこの曲は彼が初めてニューヨークで過ごした週末の印象を描いた作品である。 冒頭の華やかなファンファーレはマンハッタンを初めて訪れたスパーク自身の興奮を表現している。ファンファーレに続き、ウッドブロックの軽快なリズムに導かれアルトサックスがバラードの主題を奏で、次第にバンド全体へとその主題が引き継がれていく。そして、ニューヨークの昼の喧騒を表現したシーンに移り変わり、アップテンポの軽やかなパッセージが奏でられる。その後、場面は夜へと転換し、ドラムのリズムに乗ったお洒落な大人の街を感じさせるジャズの旋律が演奏される。そして再びストリートシーンへと突入し、バラードの主題や冒頭のファンファーレが再現され、曲は劇的に終わりを迎える。 大都会ニューヨークでの様々な情景を思い浮かべながらお楽しみください。 (第44回定期演奏会) |
ダンス・ムーブメント |
●原題:Dance Movements
●グレード: 6 ●演奏時間:約22分 ●第44回定期演奏会 ワシントンの米軍空軍バンドに委嘱されたフィリップ・スパークによって作曲されたこの曲は、切れ目のない4つの楽章で構成されている。 1楽章 「Ritomico」 サックス、ホルン、チェロによる変拍子の旋律で始まり、その後木管楽器によるソロが曲を彩る。楽章のタイトル「Ritomico」は「リズミカルに」という意味であり、その名のとおり躍動的かつ軽快な楽章となっている。 2楽章 「Molto Vivo (for the Woodwind)」 この楽章は木管楽器のために書かれており、イギリスのカントリーダンスがモチーフとなっている。様々な楽器により冒頭のパッセージが繰り返され、小さくはじけるような伴奏に導かれ、オーボエやソプラノサックスのソロが奏でられる。その後軽やかな旋律が現れ、頂点に達し終わりを迎える。 3楽章 「Lento (for the Brass)」 この楽章は金管楽器のために書かれており、ゆったりとしたクラシックバレエがモチーフとなっている。 トランペット、ハープ、ビブラフォンの囁くような旋律から始まり、ホルンとトロンボーンによる問いかけ合うようなソロが続く。その後壮大なコラールが歌われ、再び静けさを取り戻し締めくくられる。 4楽章 「Molto Ritomico」 打楽器のソロによって始まるこの楽章は、1楽章よりもさらにリズミカルで変拍子的な旋律が奏でられる。小休止を挟み楽章の冒頭が再現された後、華やかなファンファーレが曲を盛り上げ、輝かしさを保ったままクライマックスへと向かう。 スパークが作曲当時に自身の最高傑作であると評した、技巧を凝らせた舞曲をお楽しみください。 (第44回定期演奏会) |
シンフォニエッタ第2番 |
●原題:SINFONIETTA No.2
●グレード: 5 ●演奏時間:約20分 ●第39回サマーコンサート フィリップ・スパーク (1951~) はイギリスの作曲家。イギリスの王立音楽大学(RCM)にてト ランペット、ピアノ、作曲を学び、『オリエント急行』や『ダンス・ムーブメント』を代表とする数々の名曲を産み出し、一躍世界的に有名な作曲家となった。また、東京佼成ウィンドオーケストラによる委嘱作品や、東日本大震災の復興支援のために作曲された『陽はまた昇る』などの作品で日本とはゆかりがある。日本では比較的演奏されることが少ない『シンフォニエッタ第2番』は1992 年の作品で、スパークの作品群の中では初期のものにあたる。イギリス青少年ウィンドオーケストラの委嘱により、既存のブラスバンド作品3曲を吹奏楽用に改作する形で発表された。 第1楽章:Overture 快活なソナタ形式。提示部はシンコペーションと連符が巧みに組み合わされたリズミカルな第一主題に始まり、このモチーフがバンドの各セクションに次々と受け継がれていく。やがて、同じテンポのまま曲は滑らかな第二主題へと移行し、スパーク特有の4度を頻繁に利用した和声進行が用いられている。展開部では拍子が頻繁に変化し、各楽器のおどけた雰囲気のソロが引き継がれつつ 発展していく。再現部では音量変化や場面展開が一層激しくなり、疾走感を保ちつつ曲は終結する。 第2楽章: Serenade 導入部はフルートとクラリネットによるやさしい旋律がうたわれる。その後、イングリッシュホル ンやテナーサックス、ホルン、ユーフォニアムといった中音域の楽器によって3拍子のメロディーが悠々とうたわれる。ゆっくりとしたテンポでありながらも、和声の解決があまり見られない展開によっ て曲の進行感が維持されていく。中間部では8分の5拍子のセクションに変わり、めまぐるしく転調しながら明るい雰囲気のフレーズが顔を出す。アルトサックスのデュエットを挟み、曲はもう一度3 拍子になり再現部を迎える。先の場面のフレーズを基盤としてそこにブラスセクションの音色が加えられ、曲の表情はよりたくましく輝かしくなる。突如勢いをなくし始めた音楽は、そのまま長いデク レッシェンドをしながら緩やかに収束していく。 第3楽章:Finale 爽快なテーマで幕を開け、強烈なバンド全体のフォルティシモで始まる。スタッカートを多用した歯切れの良い音楽が、様々な楽器によって演奏される。せわしなく続く旋律は突如全体のフォルテを迎え、サーカスのようなドライブ感が楽しめる。テンポを維持したまま曲の雰囲気は落ち着き、トロ ンボーン、ホルン、サックスへとユーモラスなテーマが受け継がれていく。リズミカルなテーマは不意に終わりその瞬間からイングリッシュホルンによる優雅な旋律が聴こえてくる。この二つの対照的な音楽が断片的に交互に行われた後、曲はゆったりとしたテーマへと移行する。コルネットのソロに始まる叙情的な音楽が悠然とうたわれた後、曲は前半の勢いを取り戻す。再現部を終えたところで曲 は急停止し、変ニ長調によるエンディングを迎える。 (第39回サマーコンサート) |