Dana Wilson – ダナ・ウィルソン
ウィンドアンサンブルのためのピース・オブ・マインド |
●原題:Piece of Mind for Wind Ensemble
●グレード: 6 ●演奏時間:約22分 ●第29回サマーコンサート
1988年にアメリカで作曲・初演された本作は、フェスティバル・ヴァリエーションと言わば同世代・同郷の作品ですが、その内容面には一線を画すものがあります。それは、単純にC.T.スミスと本作の作曲者、ダナ・ウィルソンの作風の違いによるところもあるでしょうが、一番大きいのは、本作が「ウィンド・アンサンブル」のために書かれたことによる楽器使用上の相違です。 ウィンド・アンサンブルの特徴としては、オーケストラでいうヴァイオリン、通常の吹奏楽におけるクラリネットのように、大人数を擁して確固たるメロディパートとして位置する楽器を求めない点が挙げられます。つまり、全てのパートが対等な関係性によって、巨大なアンサンブル体を作っているのです。作曲者ウィルソンは、かのフレデリック・フェネルがこのウィンド・アンサンブルの理念を追いかけたイーストマン音楽学校で学び、少なからずその影響を受けています。彼は緻密なスコアリングによって、独特な世界観を作り出すことに成功しています。「ウィンド・アンサンブル」というジャンルに面白さを感じていただければ幸いです。
本作は、1988年のサドラー賞およびオストワルド賞(いずれも高名な吹奏楽作曲賞)の両方で最優秀賞に輝いた、音楽的にも非常に評価の高い作品です。タイトルの「ピース・オブ・マインド」は、“心の中にあるもの”と訳すことができます。人間の深層心理を吹奏楽によって見事に体現しています。
Ⅰ.思案(Thinking) 様々な考えが頭の中で浮かび、新たな考え方が周囲から持ち込まれ、思考は突然解決を見せたり、ふっと消えてしまったりする…多様な楽器の組み合わせとメロディの折り重なりによって揺れ動く一人の人間のブレインを表現したのがこの1楽章です。 Ⅱ.記憶(Remembering) 記憶していると認識するためには、その記憶を想い起こすことができなければなりません。浮遊感の漂う曲想の中に突如差し挟まれるいろいろなスタイルのジャズやサンバ、波のように繰り返されるエコーなどを用いることで、「記憶の想起」が表現されています。 Ⅲ.知覚(Feeling) 思考の末には何らかの感情に行き着きます。この楽章は、人間の感情の奥深さ、激しさを際立って感じさせるような、非常に情緒にあふれた、コントラストの強い音楽となっています。 Ⅳ.存在(Being)
作曲者はこう書いています。インド最深部の宗教性に人間の存在への答えを結びつけた冒頭、全楽章を通じて用いられる4音による主題を見事に展開させ、人間の存在そのものに対する探求と賛美を表現し、曲を結んでいます。 (第29回サマーコンサート) |