Fukushima Hirokazu – 福島弘和
アイヌ民謡「イヨマンテ」の主題による変奏曲 |
●英題:Variations on a Theme of AYNU Folk Songs
●グレード: 4.5 ●演奏時間:約12分30秒 ●第30回サマーコンサート
この作品は、2006年に作曲された福島弘和氏の近作で、タイトルの示す通りアイヌ民謡が使われた変奏曲となっております。タイトルにありますイヨマンテというのはアイヌの儀礼のひとつで、熊の霊を送る祭りの事です。
アイヌは、冬の終わりにはまだ穴で冬眠している熊を狩る猟を行いますが、その時に熊がいた場合は、親熊は殺し小熊だけを生きたまま集落に連れて帰って育てます。小熊は集落にいる間は丁重に育てられ、食事も上等なものが与えられます。そして1~2年ほど育てた後に、集落で盛大な送り儀礼を執り行い、丸太で小熊の首を挟んで屠殺・解体してその肉を皆で分け合います。この、熊を殺し皆で食す儀式がイヨマンテです。 これは熊の姿を借りて人間の世界にやってきたカムイ(アイヌにおける神、あるいは何らかの力を有す霊的な存在)を、1~2年のあいだ大切にもてなした後に見送りの儀式を行い、元の神々の世界へ帰っていただくものであると解釈されます。そうして残された熊の肉や毛皮はカムイによってもたらされる置き土産であると考えられるので、見送りの儀礼の後に皆で分け合って食すのです。
さて、話をこの曲に戻しますと、この作品においては主題としてイヨマンテの儀礼の中で歌われる歌を歌っています。使われる部分の歌詞を現代日本語で表記すると「カムイホプニナーホコトゥンケヘチュー」となり、曲中ではそのメロディーが、コダーイの「ハンガリー民謡『くじゃく』による変奏曲」を意識した手法で12通りに変奏されます。 作曲者が言うには、この曲は男らしさがテーマとなっているそうです。しかし曲全体の印象としては、10分強の中で12通りの変奏が次々と奏されることもあり、様々な変化をする非常に表情豊かなものと感じられるかと思います。 また作曲者はアイヌ民謡に対して、東欧の響きと共通しているものを感じたそうです。一見無関係に思える「ハンガリー民謡『くじゃく』による変奏曲」を意識した手法で曲が書かれているのは、こういった理由からきています。くじゃくを知っていると、こうした面からもこの曲を楽しむことが出来るかもしれません。 (第30回サマーコンサート) |