あなたの知らない「ブラスバンド」の世界。「鼻血ドラゴン」とは?【サマコン曲紹介――ドラゴンの年編】

こんにちは、ご覧いただきありがとうございます。ユーフォのてんぐです。

今回はサマーコンサートでを演奏する『ドラゴンの年』についての紹介記事です。

「ドラゴンの年?、あ~、辰年ってこと?」

というお客さん…はいないかもしれませんが、曲自体は聴いたことのない方も多いのではないでしょうか?

この曲、実は、多くのブラスバンド曲や吹奏楽曲で有名なスパークの作品です。

『ドラゴンの年』はスパークの曲の中でも最高傑作だと言われることもあるくらい素晴らしい曲なんですよ。

というわけで、この記事では

・『ドラゴンの年』の「ドラゴン」の由来。ウェールズの歴史。

・英国式ブラスバンドの魅力。

・作曲者スパークの作曲に対する姿勢とは?

・ドラゴンの年ってどんな曲?

の4点セットでお伝えしたいと思います。

曲の背景知識をもってサマコンに行けば、もっと楽しめること間違いなしです!

なかなかの長文記事になってしまいましたが、ぜひ最後までお付き合い下さいませ。

『ドラゴンの年』の「ドラゴン」の由来は?

「ドラゴン」の由来を説明するためには、『ドラゴンの年』が作曲された経緯や、イギリスの構成国家のひとつであるウェールズの歴史について振り返る必要があります。

先に簡単にウェールズについて簡単にご紹介しましょう。

ウェールズは仲間はずれ!?

ご存じの通り、イギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの国から成る連合国家です。ユニオンジャックとして知られる有名なイギリスの国旗がありますが、この模様はウェールズを除く国を表す旗の模様が組み合わさってできています。

なぜウェールズの旗はユニオンジャックに組み込まれていないのでしょうか?

イギリス国旗の成り立ち(画像はWikipedia(イギリスの国旗)より引用)

ウェールズの国旗の成り立ち

ウェールズの旗がユニオンジャックに含まれていない理由は、ウェールズが長い間イングランドの支配下にあったからです。

ウェールズは16世紀にイングランド王国の一部として完全に組み込まれ、ユニオンジャックが成立した時点では独立した立場を持っていませんでした。

しかし、20世紀始め頃からウェールズの自治権を巡る動きが活発になり、1997年には、住民投票に基づいて成ウェールズ統治法が成立。同法により1999年にウェールズ議会が創設されました。想像していたより最近のことで驚きました。

このようなウェールズのアイデンティティを求める社会的な動きが活発になる中で、1959年に赤い竜の旗がウェールズの国旗と正式に認定されました。

ウェールズの旗(画像はWikipedia(ウエールズ)より引用)
赤いドラゴンとウェールズ

ウェールズの旗に「赤い竜」が描かれている訳には諸説あるようですが、ウェールズとローマ帝国がイギリスを占領していた時代から、軍隊のエンブレムに用いられていたり、王家の旗に描かれたりと、ドラゴンはウェールズの歴史に度々登場している模様だったようです。

またこちらのサイトには、「ウェールズの建国には、地に住む黒い悪のドラゴンを、赤いドラゴンが倒したという伝説があります。」と記述されています。

インターネットからは体系的な情報があまり見つけられず、詳しいことはわかりませんでしたが、まだ調べがいがありそうです。

詳しい方がいたら、読者アンケートから教えて下さい!

『ドラゴンの年』の出自

もうお分かりかと思いますが、『ドラゴンの年』の「ドラゴン」はこのウェールズの国旗の「赤い竜」のことを指します。

『ドラゴンの年』は1984年、ウェールズのブラスバンド(金管バンド)であるコーリーバンドの100周年記念委嘱作品として、スパークにより作曲されました。

現在のコーリーバンドの歴史は130年を超え、とても長い歴史を持つことがわかります。

以上のことを踏まえると『ドラゴンの年』というタイトルには、ウェールズを代表するブラスバンドであるコーリーバンドの長い歴史とそのアイデンティティに対するスパークの敬意が表れていると言えるのではないでしょうか。

ちなみに、今回のサマコンで阪吹が演奏するのは、シエナ・ウィンド・オーケストラが委嘱し、作曲者自身による2度目の吹奏楽編曲である『ドラゴンの年 2017年版』です。

あなたの知らないブラスバンドの世界

ブラスバンドは、金管楽器と打楽器からのみなるイギリス発祥の合奏形態です。

イギリスのブラスバンドの歴史

イギリスのブラスバンドの歴史は産業革命時に始まりました。当時、ブラスバンドは労働者の余暇活動でした。

雇用主たちは音楽教育を通じて、労働者の生活の質を向上させ、文化的な価値観を教え込むことを目指していたそうです。

一方で、このサイトの記述によると、「都市化が進む中、労働者がその余暇の間に夢中になっている政治活動を減らすために、雇用主がブラスバンド活動に資金提供するようになった。こうして、ブラスバンドの伝統が基礎が築かれた」とのことです。

当時のブラスバンド活動は、雇用主が労働者をコントロールするためのものだったとも言えるかもしれませんね。

ともかく、イギリスのブラスバンドは当時の労働者の余暇活動として発展したことは間違いないでしょう。

映画化されたブラスバンド

1996年に制作された映画『ブラス!(邦題)』では、グライムソープ・コリアリー・バンドの実話をモデルに、小さな炭鉱の町で働く労働者たちの人間模様や当時の社会的な状況が描かれています。

同映画では、労働者たちの仕事場である炭鉱が閉鎖されるかもしれないという厳しい状況の中で、全英のブラスバンドコンテストへの出場を目指す姿も描かれます。

厳しい状況で良い演奏を目指す…。程度の差はあれど、コロナ禍の吹奏楽界と通ずるものがあるかも(?)

またサウンドトラックは、映画のモデルとなったグライムソープ・コリアリー・バンドが実際に務めており、吹奏楽やブラスバンドが好きな方なら、観ても聴いても楽しめると思います。映画中に演奏される『ダニーボーイ』はストーリーも相まって超感動的です。

興味のある方は、ぜひ観てみて下さい。おすすめです。

「ウィンドバンド」と「ブラスバンド」

日本ではブラスバンドと言うと「吹奏楽」のことを指すことも多いですが、イギリスでは吹奏楽を「ウインドバンド」金管と打楽器のバンドを「ブラスバンド」と呼び、はっきりとした線引きがあります。

吹奏楽とは違って、ブラスバンドには木管楽器はありません。また、トランペットではなくコルネットという楽器が用いられ、アルトホルンやバリトンなど通常の吹奏楽編成ではあまりお目にかかることのない楽器も含まれています。

金管楽器のみからなる編成であるため、音色の統一感が素晴らしく、ブラスバンドの音色はしばしばオルガンに例えられます。

また、金管楽器ならではの大幅な音量変化が可能で迫力があることはもちろん、吹奏楽の金管パートが通常では行わないようなアクロバティックな譜面がたびたび登場します。

今回のサマーコンサートで演奏する『宇宙の音楽』と『ドラゴンの年』は、実はどちらもブラスバンドのために書かれた楽曲が原曲なので、一般的な吹奏楽曲に比べると、金管パートにハードな譜面が与えられており、ぼくは「やばいやばい」と言いながら練習しています。頑張らねば…。

特に、ユーフォニアムは金管バンドでは花形の楽器のひとつに数えられ、ブラスバンド版の譜面の大部分をそのまま割り当てられることもあるため、譜面が真っ黒になりがちなんです。

ブラスバンドを聴きに行こう

金管バンドは主にイギリスを中心にヨーロッパで盛んで、全英選手権やヨーロッパ選手権などの大規模なコンテストが定期的に開催されるほどです。

有名な金管バンドには、ブラックダイクバンド、グライムソープコリアリーバンド、コーリーバンドがあります。

どのバンドも長い歴史と高い技術を誇ります。

ブラックダイクバンドは数年前に何度か来日してコンサートを行っており、私も2回聴きにいきました。

生で聴く金管バンドの演奏は大迫力かつ繊細で、超絶技巧も交えたユーモアにも富んだ演奏もあり、感動あり笑いありで最高でした。

みなさんも機会があれば、ブラスバンドの生演奏を聴きに行くことをおすすめします。

これはゲイリーカーチンというユーフォニアム奏者本人がアップロードしている動画ですが、僕が聴きにいった演奏会でも、まさにこれをやってくれました。サインも貰いました笑。

あまりに凄い超絶技巧に会場から大歓声&大爆笑が起こっています。ぜひ観てみて下さい。

フィリップ・スパークの作曲に対する姿勢

『ドラゴンの年』の作曲者であるスパークはイギリスの作曲家。その魅力的な楽曲の数々で世界的な支持を得ています。

そんなスパークの作曲に対する姿勢はどのようなものなのでしょうか。

自身の楽曲に対する自負

2017年の『THE BAND POST』のインタビュー記事で、『ドラゴンの年』が最高傑作だと評されていることをどう思うか問われたスパークは

「私の作曲は33年前から大きく進化してきており、そのときもっとも良い作品を作り続けてきた。少なくとも私はそう願う。」

と答えています。

作曲家としての意欲に満ちた向上心が見て取れますね。

また、『ドラゴンの年 2017年版』に寄せた自身の解説によると、1985年の初版に比べ近代的な吹奏楽編成への対応や木管楽器のアーティキュレーションの改善などを行ったといいます。

しかし、これは「誤りの訂正」ではなく、自身の作曲技法の成熟の結果であるという但し書きをつけています。

ここにもスパークの「もっとも良い作品を作り続けてきた」という作曲に対する一貫した態度が感じられると思います。

この楽曲に対する誠実さも人気の理由のひとつなのかもしれないと、ぼくは感じました。

『ドラゴンの年』ってどんな曲?

『ドラゴンの年』は、「TOCCATA」「INTERLUDE」「FINALE」の3楽章からなります。

TOCCATA

TOCCATAは『ドラゴンの年』の他の楽章と比べて少しトリッキーに感じられるかもしれません。

戦いの口火を切るような、スネアドラムと金管群の強烈な炸裂音によって曲が始まり、その後も曲の終わりまで目まぐるしく展開します。中盤には優雅に踊るような部分もあり、聴いているものを飽きさせない魅力があります。躍動感に満ち、力強い印象がある曲です。

INTERLUDE

個人的に一番お気に入りの楽章です。アルトサックスの物憂げなソロが一番の注目ポイントでしょう。悲しみを誘うような旋律を聴いてみなさんは何を思うのでしょうか。

曲の中盤に静かに始まるコラールはとても美しく、あやうく天国に連れて行かれるかと思うほど感動的です。聴くときは、うっかり昇天しないように気をつけて下さい。

FINALE

FINALEは楽章全体に渡って絶え間なく続く16分音符の急速なフレーズが特徴です。

トロンボーンやチューバなどの、普段は細かい連符を吹くことがないような楽器にも高速なフレーズがちりばめられ、非常にダイナミックな曲調になっています。終結部では、ウェールズの誇りを掲げるようにファンファーレが鳴り響き、1楽章冒頭の炸裂音の形が再び現れ勢いよく終結します。

YouTubeで聞ける、おすすめの演奏動画!

近畿大学吹奏楽部

近畿大学吹奏楽部第58回定期演奏会での演奏です。この演奏は『ドラゴンの年』の吹奏楽版の初版なので、今回阪吹が演奏する2017年版とは若干異なります。例えば2楽章のアルトサックスソロは、初版ではコーラングレが担当しています。他にも違いがあるので、気になる方はこの音源を聴いてサマコンでの演奏と聞き比べてみてはいかでしょうか?

Britannia Building Society Band

1992年のヨーロッパ選手権での、「鼻血ドラゴン」といわれる伝説的な演奏です。この年、このバンドがTotal193点をたたき出して優勝していることからも、この演奏の凄さが伝わってきますが、とにかく聴いてみればわかります。鼻血出ます。

終わりに

いかがでしたか?

今回の記事では、ドラゴンの年を中心に、ウェールズについて、金管バンドについて、スパークについてご紹介しました。

コンサートプログラムに字数の関係で書ききれなかったことを詰め込んだら、とても長い記事になってしまいました笑。

ブラスバンドに興味を持たれた方は、ご自分でも色々調べてみて下さい。また、ぜひ生演奏を聴きに行ってください。その感動を共有したいです。

『ドラゴンの年』紹介を通じて、ブラスバンドやスパークの魅力が伝わっていたら嬉しいです。

編集後記

いつも阪吹ブログをお読み頂き、ありがとうございます。

阪吹ブログでは、7月11日のサマーコンサートへ向けた団員の思いや、サマーコンサートを聴きに来たくなるような魅力をお伝えしています。

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