「交響曲第3番」—楽曲紹介

こんにちは!正指揮者の大泉晴絵です。

阪吹ブログは、選曲に出した人が依頼されて書くことになっていますが、バーンズ3番は4人候補者がいるくらい人気の曲でした。(全団員による選曲投票でも圧倒的人気でした。)

私もかねてより挑戦したい曲だったので、指揮者の意思と民意が同じ方向を向いている曲が定演の大トリに据えられている幸せを噛み締めながら、日々練習に励んでいます。

前置きはさておき、早速曲解説をさせて頂きます!

バーンズってどんな人?

バーンズというと、皆さんが思いつく曲はなんでしょうか?

バーンズは『アルヴァマー序曲』『祈りとトッカータ』『交響的序曲』『パガニーニの主題による幻想変奏曲』等、種類の異なる様々な名作をつくり出していますが、私は彼の作品は、三和音を平行移動させたり反復するフレーズで音楽を進める手法をとっている作品と、わかりやすく明るい作品とに二分されると思っています。

交響曲第3番では、前者のルトスワフスキの管理された偶然性(アレアトリー)の技法を多分に含むのが1・2楽章、後者の明快でわかりやすい進行が3・4楽章に当てはまると言えます。

バーンズの作風の共通点としては

・スコアの見通しの良さ、明確なオーケストレーション

・難解な譜面と高度な技術力を求めず、特定のパートに極端な負担がかからない

・細やかなスコア上の注意表記

・彼自身がTuba奏者なこともあり、低音の使い方が巧み

が挙げられると思います。交響曲第3番はスコアを読み込むほど勉強になりますし、バーンズの2つの作風がバランスよく詰まっている作品と言えるでしょう。

交響曲第3番の制作背景

この作品はバーンズが1990年にアメリカ空軍軍楽隊から委嘱され、1994年に完成させた一曲です。この曲の題材となる出来事として、1993年秋にバーンズの第二子、ナタリーが生後半年で夭逝したことがあります。

『この交響曲は、私がこれまでに作曲した中で最も感情を消耗した作品だ。副題をつけるとすれば「Tragic」“悲劇的”が相応しく思う。』(バーンズ)

その後、バーンズの提案により大阪市音楽団(現在のオオサカシオンウインドオーケストラ)によって1996年に作曲者列席のもと初演されました。この作品は、ナタリーを亡くしたばかりの絶望の深い暗闇から、未来への希望と喜びの明るさへと進んでいきます。

では、楽章ごとの解説をしていきます!

第一楽章:Tragic (悲劇的)

1楽章は、バーンズの回想でもあったように「悲劇的」が相応しい、シリアスで絶望感や怒りを表現した楽章です。冒頭でTimpani によって提示されるリズムと、Tuba のソロで登場するメロディが楽器やテンポを変えて繰り返されます。

ここでは、曲中の形を変えて出てくる主題をいくつか紹介させていただきますね!

2拍3連的フレーズが様々な譜面で見られる

いかがでしょう?これはほんの一部で、この無数の主題が散りばめられた1楽章でバーンズの悲劇を感じ取れることかと思います。本当に気が狂いそうになるくらいの反復です…。

第二楽章:Scherzo (諧謔曲)

2楽章は、「scherzo」の表記があります。本来の意味としてスケルツォとは、イタリア語で「冗談」を表し、おどけたユーモアのある曲調で3拍子であることが多いです。

交響曲第3番では2/4で一貫して書かれていますが、1楽章とは打って変わって無機質で感情を感じ取りにくい雰囲気が魅力的です。

主にセクション単位のSoli が中心になって曲が進む楽章で、木管、金打の大きいセクションからSolo まで、様々な楽器が活躍します。

第三楽章:for Natalie

3楽章の副題は「ナタリーのために」

幼くして亡くなった娘との日々や、これからあるはずだった未来を想った切ない楽章です。この楽章は発想記号が多用されることが特徴で、重要な音を担当するパートには必ずと言っていいほど言及されています。

  • teneramente 「愛情を持って、優しく」
  • espressivo 「表情豊かに」
  • doloroso 「悲しみを持って、苦しげに」
  • calore 「熱情を込めて」
  • cantabile 「歌うように」
  • morbido 「柔らかに、優しく」

この一部の発想記号だけでも、バーンズのこだわりが垣間見えるかと思います。他の楽章に比べ進行がわかりやすく、副題にもあるとおりバーンズの思い入れも多いのでしょう。発想記号が圧倒的に多く、バンドによって様々な色が出る楽章だと思います。

第四楽章:Finale (未来への希望)

4楽章はHrFh によって高らかに第一主題が歌い上げられ幕が上がります。精神の再生、悟りを感じさせる楽章となっています。第二主題ではソナタ形式「神の子羊」というルター派の讃美歌に基づく音楽が展開していきます。この讃美歌はナタリーの葬儀で歌われたもので、それまで6/8で進んできた音楽がその箇所だけ2/4表示に変わり、譜面としても差別化されています。

ダブルリード群によるメロディ

また、後半ではTuba Picc Solo の掛け合いがあります。この箇所はTuba 奏者でもありナタリーの父親であるバーンズと亡きナタリーの声と言われ、バンドで最低音と最高音を担当する二つの楽器の掛け合いが、現世で交わることのない2人の切なさと確かな繋がりを感じることができます

チューバとピッコロの掛け合い、泣けます…!

個人的には、絶望から立ち上がった4楽章の終始明快で疾走感のある音楽の中でも、Soliで引き合いに出すほど、バーンズが愛するナタリーに対して「忘れないよ」と言っているようでうるっときてしまいます。

辛くても苦しくても進んでしまう人生を、どれだけ歩んでいっても時間が経っても親子の絆が切れることはないのだと実感させられます。

バーンズが交響曲第3番を完成させた3日後、1994年6月25日に息子ビリーが誕生します。3楽章がナタリーへの別れの曲だとすれば、4楽章はビリーへの祝福の曲なのかもしれませんね。

最後に・・・

この曲は、バーンズの交響曲の中でも1番人気と言っていい名曲です。吹奏楽好きの方なら一度は耳にしたことがあるでしょう。

私がこの曲を初めて聴いたのは高校1年生の時でした。
自分がチューバということもあり、1楽章の大ソロに強く惹かれたことを覚えています。その時楽器を始めて半年ほどだった私は、「いつかこのソロを吹けるくらい上手になろう」とモチベーションを上げました。

それから5年、自分は大学でも吹奏楽を続けて、指揮者として楽しく活動させてもらい、今や引退の演奏会が迫っています。

結局、私はあのソロを吹くことはなかったし (頼れる同期が吹いてくれます✨)、子供を授かる喜びも失う悲しみも知りません。
しかし、知らないなりに理解する努力をして、半年間全力で曲に向き合えたと心の底から思っています。
大好きなこの曲で、大好きな阪吹を引退できて幸せです。
最後は泣いても笑っても最後なので、自分自身が納得できる演奏を目指し、心を込めて演奏させて頂きます。

阪吹55期最後の40分間、聴きごたえあること間違いなしです。
12/28(土)、フェニーチェ堺大ホールでお待ちしております!

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