Jan Van der Roost – ヤン・ヴァン=デル=ロースト
交響詩「スパルタクス」 |
●原題:Spartacus
●グレード: 6
●演奏時間:約14分 ●第14回サマーコンサート
オランダの作曲家ヤン・ヴァン=デル=ローストが作曲し、1989年にデ=ハスケ社から出版されました。
「交響詩」という題名はついていますが、決まったストーリーはありません。しかし、聴いた人はたいてい、一昔前のスペクタクル映画 ― 「ベンハー」とか「スパルタクス」など ― の一場面を思い浮かべてしまうことでしょう。 曲は主に4つの部分 ― 疾走する「第1楽章」、ロマンティックな「第2楽章」、勇壮な「第3楽章」、そして全曲をしめくくる「コーダ」 ― から成っていて、全ての楽器が「見せ場」を持つ実に効果的な曲で、日本でもコンクールなどで演奏されて人気を集めました。 (第14回サマーコンサート) |
エクスカリバー |
●原題:Excalibur
●グレード: 6
●演奏時間:約13分 ●第16回サマーコンサート
エクスカリバーは鋼をも断ち切る強さを持ち、さやには負傷を治す能力がある。 6世紀、ブリテンの王アーサーは、この剣を湖の精から授けられ、剣は後の幾多の戦いにおいて王を護りぬくこととなった。また、その魔力ゆえに王を亡き者にと計画する者に盗まれたりもするが、王は死の間際に、部下に命じて湖に投げ入れさせ、剣を湖の精に戻した。こんな波乱万丈なストーリーをもとに、この曲は作られた。
『この曲には、〈速さ〉〈強さ〉〈機動性〉という、この剣が持つ性格の全てを与えた。また、大変豊かな表情を持つ中間部分は、寛大でかつ寛容さを持つアーサー王と彼の愛したグウィネヴィア王妃を表現した。』と作曲者ヤン・ヴァンデルローストは言う。 (第16回サマーコンサート) |
ダイナミカ |
●原題:Dynamica
●グレード: 5
●演奏時間:約7分 ●第19回サマーコンサート
この曲は、プロヴァンス組曲やフラッシング・ウィンズでお馴染みのヤン・ヴァンデルローストによりNEC玉川吹奏楽団の創立40周年を記念して創られたもので、一昨日に初演となったため、聴いたことのある方はまだ少ないのではないでしょうか。
曲の冒頭では力強い金管楽器のファンファーレとともに幕開けし、続いて木管楽器の生み出す美しいメロディーが響き渡ります。中間部では6/8の敏速なリズムで軽快に音楽が進行し、4拍子に戻ると、各パートがあたかも競争をしているかのように次々と音楽は展開していきます。再びファンファーレが登場し、いよいよ最後のクライマックスとなります。 特徴的なリズムと、題字のごとくdynamicでエネルギッシュな演奏をどうぞご堪能ください。 (第19回サマーコンサート) |
交響詩「モンタニャールの詩」 |
●原題:Poeme Montagnard
●グレード: 6
●演奏時間:約19分 ●第25回サマーコンサート
この曲を作曲したヴァンデルローストについて知っている方も多いと思うが、少し紹介をしたいと思う。
彼は1956年3月1日、ベルギー北部のデュッフェル生まれである。 ルーベンのレマンス音楽院でトロンボーン、音楽理論、音楽教育のディプロマを取得し、その後、ガントの王立音楽院とアントワープの王立フレミッシュ音楽院でも学んだ。彼は吹奏楽向きの大きな曲や、室内アンサンブルやピアノ、ギター、合唱にまでと多岐にわたるジャンルの作品を書いている。また、ベルギーで最初にできた「ブラス・バンド・ミデン・ブラバンド」の指揮者としても活躍し、ブラスバンド向きの作品も数多く書いている。
さて、そんな彼が書いた「モンタニャールの詩」は、イタリア北西部ヴァレ・ダオスタ州の州都アオスタの市民吹奏楽団、ヴァレ、ダオスト吹奏楽団の委嘱によりヴァンデルローストが1996年に作曲、翌年に同楽団によって初演された。この作品はアオスタ地方の歴史や風土に加え、かつてこの地方を統一した一人の女性の名が付けられている絵画「カトリーン・ドゥ。シャラン」の気高いムードから、ヴァンデルロースト自身が得た印象をモチーフに作曲された。この曲はフランス語で題名が付いていて、”Poeme Montagnard”となっているのだが、英語では”Poem Highlander”となる。直訳では「高地人の詩」となるが、この高地人とはこの地方の人々を指すとともに、このカトリーン自身のことも指しているであろう。
曲の導入部は、ヨーロッパの屋根とうたわれるモンブランに代表される山肌が、その厳しさを押し隠して静寂が漂っているという情景を、打楽器のロールなどで表現している。だんだんと日の出が近づいてくるにつれ、木管群を加えて発展し、ヴァンデルローストが「サングラスが必要な位、雪が輝いている山々を見るように輝かしい」と語った最初の全合奏部へと向かう。その後は、ダブルリードによって後に現れるルネッサンス・ダンスの断片が呈示され、力を得た音楽はこの地方を幾度と巻き込んだ戦争を表現。不協和音のフラッターを迎えると音楽は一変する。先ほど呈示されたルネッサンス・ダンスがリコーダー・カルテットによって軽やかに演奏され、それがサクソルン・アンサンブルからバンド全体へと大きく広がって、大きな盛り上がりを見せるのである。その後は、ユーフォニアムとホルンが歌う優しく叙情的なメロディーによって、カトリーンの生涯で常に大きな役割を果たしたであろう”愛”が歌われて、曲は、最後にさまざまなテーマを再現しながら、劇的な高まりを見せて終結する。 (第25回サマーコンサート) |
シンフォニエッタ ~水都のスケッチ~ |
●原題:SINFONIETTA Suito Sketches
●グレード: 6
●演奏時間:約25分 ●第45回定期演奏会
この曲は大阪市音楽団の創立80周年を記念してヤン・ヴァンデルローストに委嘱された作品で、2003年11月22日の第87回定期演奏会において大阪市音楽団が初演しました。この「シンフォニエッタ」は4楽章からなる曲ですが、各楽章間に主題や音楽的な関連はありません。むしろどの楽章も独自の色彩と空気に満ちており、現代吹奏楽のもつ多様な可能性を様々な角度から聴かせてくれます。
第1楽章(水都に着いて)は、様々な打楽器によって織り成される朧気で神秘的な「音のカーテン」から始まり、木管楽器の即興的なソロが続きます。この幾分か躊躇したように聴こえるオープニングの後、低音の金管楽器の荘厳で壮麗な主題へと移り、徐々に音のカーテンが開いていきます。そして壮大なクライマックスを迎えた後だんだんと穏やかになり、オープニングを思い起こす曲想へと収束し朝靄の中へと帰っていくように第1楽章は終わります。
第2楽章(剣舞)は、ウッドドラム、ハイトム、バスドラムによって雄々しく始まる、第1楽章に比べより力強くダイナミックな楽章です。その冒頭の後、ティンパニと低音楽器が堅固で印象的なサウンドをつくりあげ、続いて野性的な踊りが始まります。やがて全ての音域にわたってエキサイティングで目を見張るパターンやリズムが次々と演奏されていきます。そして、オーケストラが一体となってこの壮大で野性的な踊りは狂乱を伴ったクライマックスを迎えたかのように見え、最後に聴衆の意表を突きます。
第3楽章(河畔の夕暮れ)は、第2楽章の強烈なサウンドとトゥッティの興奮から一転し一見静かな楽章になります。この楽章では木管楽器のソロにより、水都を流れる川辺の夕方が叙情的かつ感傷的に描かれます。ゆったりとした第3楽章のオーケストレーションは色彩豊かで洗練されています。アルトサックスとピッコロのように多様な(時として特異な)楽器の組み合わせと、金管楽器群の伝統的な楽器の組み合わせが交互に繰り返されます。そして感情的なメロディは一旦頂点へと達した後に収束していき、儚く幻想的に夜の帳は降ります。
第4楽章(未来に向かって)は、レチタティーヴォのようなユニゾンのメロディで幕が開きます。その後木管楽器が目まぐるしい音形を提示し、コラール風の主題へと続きます。このコラール風の主題はトロンボーンに始まりトランペット、木管楽器と様々な楽器で展開されます。曲は途中で一度第2楽章を彷彿とさせるような打楽器による間奏を挟み、最後には全ての金管楽器が、生き生きとした木管楽器のテーマと結合してクライマックスを迎えます。そして、ウィップの音に導かれる形で曲は終わります。次々と繋がって演奏されるコラール風の旋律、絶え間なく続く木管楽器のテーマは楽章のタイトルにある「未来」を象徴しているといえます。
作曲者はこの曲を書き始めるまでに、音楽の形式(序曲や交響曲)やモチーフ(西洋的や東洋的)、難易度などについて数か月もの間悩んだといいます。その結果、作曲者は西洋と東洋に橋を架け、異なる影響や着想を組み合わせひとつの楽曲にしようと試み、表には出ず隠された形で日本的な要素を用いることでこの小交響曲が生まれました。音楽が文化・人種・宗教などを超えるものであるからこそ、このようなことは可能なのだと作曲者は述べています。
本日私たちはそのような想いの込められた楽曲を、水都大阪の一楽団として演奏します。ヤン・ヴァンデルローストが全身全霊を捧げて書き上げた、西洋と東洋の融け合ったハーモニーをどうぞお楽しみください。 (第45回定期演奏会) |