Oliver Waespi – O. ヴェースピ

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アウディヴィ・メディア・ノクテ

  • ●原題:AUDIVI MEDIA NOCTE
  • ●グレード:6
  • ●演奏時間:約20分
  • ●第49回定期演奏会

 この作品は、スイスの作曲家 O.ヴェースピ (1971 ~)が、2011 年 4 月、スイスにて開催された「ヨーロピアン・ブラスバンド選手権 2011」の選手権部門指定課題曲としてブラスバンド編成で構成し、のちに自身が吹奏楽編成にアレンジしたものである。16 世紀イングラン ドの作曲家トーマス・ダリス (1505? ~ 1585) のコラール・モテットにインスパイアを受けた背景を持つ一方、中間部から最後にかけてはファンクやジャズといった 19 世紀に端を発するジャンルの音楽を基盤としている、まさに温故知新的な音楽であろう (モテットとは、中世末からルネサンス期に成立、発達した宗教声楽曲のジャンルの一つである。中世末からルネサンス期というと、かの有名なバッハやヴィヴァルディが活躍した時代よりもさらに昔ということになる。)。

“AUDIVI MEDIA NOCTE” という少し風変わりなこの曲の題名は、英語で “I heard at  midnight” (私は聞いた、真夜中に) という意味を持つ、ダリスのモテットのラテン語によるタイトルを直接引用している。しかし、ヴェースピによるとダリスの音楽自体を直接的に引用しているわけではないそうだ。「引用ではなく、新たなる何か一つの作品を作るための始発点として、ダリスのモテットをいわば作品の DNA 的存在として据え置いている」と語っている。相反する「新」と「旧」のモチーフの融合とは芸術においてはよくあるテーマであるが、新旧それぞれのモチーフがお互いにここまで強い主張を持っているものは珍しいのではなかろうか。

 この曲は中間部において、トロンボーン、チューバ、トランペット、ユーフォニアム、パー カッションらによる超絶技巧的ソロワークがあり、終結部に向かって変拍子やポリリズムを多用したパッセージも存在する、非常に難解な曲である。フルスコアに記載してあるパフォーマンスノートには、中間部のジャズやファンク、さらには終結部にかけてのリズムの捉え方 に関する作曲者からの詳細な注意書きがなされており、ソリストの立ち位置を含むセッティ ングの例の提示もされている。そこから、作曲者がこの曲に対して聴覚的だけでなく視覚的なこだわりをも持っていることが伺える。

 敢えてここで曲の構成に関することを詳細には書かないが、耳だけでなく目でも楽しむことができる音楽であることは間違いないだろう。演奏後には、超絶技巧ソロを吹き、叩き切ったソリストたちに盛大な拍手を送っていただきたい。

(第49回定期演奏会)

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