Franco Cesarini – F. チェザリーニ

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交響曲第1番「アークエンジェルズ」

  • ●原題:SYMPHONY No.1 <The Archangels>
  • ●グレード:6
  • ●演奏時間:約35分
  • ●第49回定期演奏会

チェザリーニはスイス出身の作曲家。『アルプスの詩』『青い水平線』に代表されるように、 日本の吹奏楽界においても彼の作品は頻繁に演奏されている。2016 年 54 歳の時、彼は突然『交響曲第1番』を発表した。委嘱等でなく自ら意欲的にこの大曲を書き上げたところに、チェザリーニのこの作品に対する大きな思いを汲み取ることができるだろう。

 曲全体を通して、宗教的な要素が非常に強い。Archengels( 大天使 ) とは、神話に登場する四大天使 ( ガブリエル、ラファエル、ミカエル、ウリエル ) を指し、4つの楽章にはそれぞれ1人の天使の名前がつけられている。作品の主題は、6つのグレゴリオ聖歌から引用されており、単調でありながらも心地よく耳に残る旋律となっている。

第1楽章:ガブリエル 天からの伝達者 (Gabriel, the Messenger of Light)  ガブリエルは、神からの啓示を人間に告げる役目を持つ。聖母マリアがお腹にイエスを授かった時、ガブリエルはその事実を神からのお告げとしてマリアへ伝令した ( 受胎告知 )。 受胎告知を描くほとんどの宗教画には、ガブリエルが登場している。

 序奏は5度の洗練された和音で高らかに神の意志を表現する。トランペットとフルートを 中心に Ave Maris Stella の主題が挿入され、様々に変形しながら展開していく。この主題が再現された後、金管楽器の高らかなファンファーレをきっかけに曲は壮大な空気を作り上げ、そのまま華々しく終了する。

第2楽章:ラファエル 魂を導く者 (Raphael, the Guide of Souls) “Raphael” はヘブライ語の “rophe( 治癒 )” を起源としている。その名が指すように、この天使は人々に癒しを与える天使であり、身体と精神の調和をはかり人々の平和な日常を支えている。副題にあるように、天国へと魂を導くという役割も持っている。曲は Lento e devote( 祈りを込めたレント ) で始まる。クラリネットやフルートが哀しい和声進行を繰り返し、ハープとホルンの神秘的な掛け合いがそこに挿入される。やがて、木管楽器を中心に Si Quaeris Miracula の主題が穏やかに歌い込まれる。徐々に金管楽器が参加し 盛り上がりを見せるが維持されず、力なく音楽は落ち着く。再びゆったりと主題が紡がれて いき、瞑想的な空気が漂いながら G♭メジャーで安らかに楽章が閉じられる。

第3楽章:ミカエル 神に仕える貴公子 (Michael, the Prince of the Heavenly Host)  多くの絵画では、光の真剣と魂の天秤を持ったミカエルの姿が描かれる。この天使は神が最初に創造した存在とされており、第一級の戦士として圧倒的な力を持っている。最後の審判において、天秤を用いて死者の魂が天国へ行けるかどうかを決めるのもミカエルである。 第3楽章は最も激しく、楽譜上にもそのような表現語 ( “pesante” “con fuoco” ) が目立つ。 序奏は、中低音域の楽器による強烈なロングトーンでミカエルの威厳を明示する。加速して 変拍子になった音楽は、Ad Jesum Accurrite の主題を勇ましく歌い上げる。ドリア旋法の民族的な旋律は戦場をイメージさせる。激しさを増す中曲は突如2拍子に変化し、Parce Domine の主題が重々しく挿入され、徐々に落ち着いていく。同主題が先とは対照的に優しく進行し ていき、ミカエルの幼いころを想起させる。変拍子の再現部を終え、両主題が唸り叫ぶように奏でられる。激しさが最高潮に達したところで突如音楽は終了する。

第4楽章:ウリエル 時の守り手 (Uriel, the Time Keeper)

 人々が困難な状況に陥った時、ウリエルはその困難を解決するための知的な導きを施す。 ウリエルの名は「神の光 / 炎」を意味し、太陽を支配する役目を持っている。我々に光を与えてくれている一方、神を冒涜する者を永久の業火で焼くという。

 約8分の楽章の中で、Kyrie Eleison Misa de Angelis の主題が延々と歌い継がれていく。展開していきながら主題は長調から短調に変化し、灼熱の炎の中で冒涜者を裁く残酷なウリエルの様子が表現される。突如旋律は長調に戻り、天から光が降り注ぎ、トランペットとユーフォニアム、その後木管楽器が声高に主題を歌い上げる。一度落ち着いた後、転調を繰り返し、曲は A♭メジャーのフィナーレを迎える。眩い光に包まれて幸福感が漲る中、長い一曲が終結する。

(第49回定期演奏会)

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