Johan de Meij – ヨハン・デ=メイ
エクストリーム・メイクオーバー ~チャイコフスキーの主題による変容~ |
●原題:Extreme Make-over – Metamorphoses on a Theme by Tchaikovsky
●グレード: 6 ●演奏時間:約17分40秒 ●第28回サマーコンサート
当団の演奏会ではおなじみの作曲家、ヨハン・デ=メイ(1953-)の作品。2005年にブラスバンド編成で作曲され、翌年には自身の手で吹奏楽編曲が行われた。 曲名は直訳すると「思い切った改造」となり、副題から分かるように、いくつかのチャイコフスキーの曲の主題モチーフを用いながら、大胆に変奏させ、全く新しい音楽を作り出している。曲は続けて奏される5つのセクションからなる。
初めのセクションで使われるのは、ご存知の方も多いと思われる〈弦楽四重奏曲第1番より第2楽章アンダンテ・カンタービレ〉。この曲は作品全体を通して現れる、最も重要な主題である。サックス四重奏の後、ダブルリードが加わり、優雅な音楽を奏でる。ファゴット二重奏を経て次のセクションに入る。 2つ目のセクションでは、アンダンテ・カンタービレの始めに現れる3つの音程をモチーフとして、ベルトーンを効果的に用いて構成されている。モチーフは徐々に音を増やして変化していき、小変奏となっており、終盤のセクションで用いられる音型の先取りになっている。 スネアドラムに導かれて始まる第3のセクションでは、チャイコフスキーの3つの曲が用いられている。初めにファゴットによって奏されるモチーフは〈交響曲第6番「悲愴」第1楽章〉からの引用。トロンボーンが後に続き、全員で行進曲風の山場を1つ作った後、、〈幻想序曲「ロミオとジュリエット」〉の雰囲気となる。緊迫感を増しながら音楽は進み、頂点に達すると、一気に雪崩のような下降音形に入る。音の持つエネルギーを感じて頂きたい。一転して上行した後、再び悲愴の主題となり第3セクションのフィナーレを飾る。途中からトランペットとホルンに出るファンファーレは〈交響曲第4番〉から取られたものである。 いったん静まった後の4つ目のセクションはアンダンテ・カンタービレの主題が、音程を指定されたボトルの音で奏される。途中から長いマリンバのソロとなり、シロホンが加わる。徐々に盛り上がりを見せて5つ目のセクションに入る。 第5セクションはアンダンテ・カンタービレの変奏主題による木管低音群からのフーガで始まる。フーガは第2セクションの後でティンパニによって示された変奏の発展形と、前のセクションでマリンバによって提示された3連符系の旋律を中心に展開し、この2つが非常に多くの声部で、ランダムに繰り返される。 混沌が頂点に達したとき、全ての木管楽器が揃ってフーガの主題を奏し、その後は今までの主題を次々に回想しながらフィナーレへと向かっていく。締めくくりには誰もが知っているあの曲が使われ、華やかに幕を閉じる。 チャイコフスキーの繊細でメランコリックな音楽と、大編成吹奏楽の圧倒的な音圧と音量感によるクライマックスをお伝えしたい。 (第28回サマーコンサート) |
エクストリーム・ベートーヴェン ~ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの主題による変容~ |
●原題:Extreme Beethoven – Metamorphoses on Themes by Ludwig van Beethoven
●グレード: 5 ●演奏時間:約18分 ●第36回サマーコンサート
曲の冒頭は「ピアノ協奏曲第5番『皇帝』」第2楽章(譜例1)より穏やかに始まります。木管、弦楽器による優雅な旋律が奏でられたあと、「交響曲第9番」第1楽章(譜例2)が導かれます。これ以降ベートーヴェンの様々な作品の主題が引用されますが、これらの旋律はただ引用されているだけにとどまらず、最小限の音型や対位法により表現されたりと、様々な方法により曲の随所に現れます。第九一楽章を主体として展開していく曲は、盛り上がりを見せたのち「ピアノソナタ第14番『月光』」(譜例3)へと落ち着きます。 「月光」によって始まったセクションは「交響曲第3番『英雄』」の旋律などを散りばめながら、徐々にダイナミクスを増していきます。緊迫感を増しながら音楽は進み、頂点に達すると楽器ごとに様々な旋律が同時に演奏され、まさに聴衆をベートーヴェンの天才的な頭脳の中身を垣間見るような錯覚に陥らせます。 その後<英雄>第一楽章に曲は引き継がれ、間に「エグモント序曲」冒頭を引用しながら「交響曲第7番」第2楽章へと移り変わります。混沌から解放された後、突然どこからともなく「交響曲第7番」第3楽章がバンダにより行進曲風に演奏されます。徐々に舞台に近づいてくるバンダは全奏者を巻き込み7番3楽章を奏でた後、「トルコ行進曲」によって舞台から立ち去ります。 曲は「エグモント序曲」終盤の主題(譜例4)より再び雰囲気を変えながら進んでいきます。この主題はコントラバスによって奏でられた後、低音楽器によりジャズ調のオスティナートとして表現されています。この8つの音符の奇妙な連なりが、この曲の中盤以降に時折出たり、隠れたりを繰り返しつつも徐々に音楽全体を支配するようになります。低音楽器による強烈な打ち込みに続き「交響曲第7番」第1楽章が引用されます。 曲の終盤では再び「ピアノ協奏曲第5番」第2楽章の主題が用いられますが、冒頭のそれとは違い大規模な編成で奏でられます。盛り上がりが最高潮に達した後、疾走感あふれる「交響曲第7番」第4楽章に曲は移り変わります。最後に「交響曲第9番」第4楽章により、曲は華やかにその幕を閉じます。
作曲者はこう述べています。 「音楽学者や純粋主義者からすると、この曲を聴くに堪えないものであるという感想を持つかもしれないが、この曲は偉大な作曲者であるベートーヴェンへの惜しみない称賛と敬意の現れであり、ひとつの頌歌である。」
譜例1
譜例2 譜例3
譜例4
作曲者のWebサイトより
(第36回サマーコンサート) |