Abe Yuichi – 阿部勇一
大唐西域記より第一章「玄奘」 |
●英題:Genjo
●グレード: 5 ●演奏時間:約6分30秒 ●第31回サマーコンサート
この曲は2002年に、大津シンフォニックバンドの委嘱により作曲されました。作曲者の阿部勇一氏による「大唐西域記」を基にした吹奏楽編成の作品は全五章での完成が予定されており、2011年現在、第二章「屈支国(クチャ)にて」第三章「凌山(りょうざん)より大清池(イシククル)へ」(共に2009)が作曲されています。
「大唐西域記」というのは中央アジアからインドにわたる百以上の国の仏教遺跡や風俗などが記録された全十二巻の書物です。隋・唐(現在の中国)の僧、玄奘(598,600,602~664、有名な「三蔵法師」のモデルとされています)は幼い時から神童と言われ、仏教への深い信仰を持っていました。やがて仏教発祥の地、天竺(インド)への思いが強まってくると、唐王朝に出国を願い出ました。しかし当時の唐は国民の出国を原則として禁止しており、玄奘についても例外ではありませんでした。しかし玄奘は国禁を犯し、天竺への旅へ向かいます。玄奘は6 4 5 年に膨大な数の仏経典ともに帰国し、その漢訳に全力を尽くしました。この時漢訳されたものの一つに「般若心経」があるという説があります。この天竺への旅の途中で訪れた国々について記録したものが、「大唐西域記」なのです。
今回演奏いたします第一章 序曲「玄奘」は、全体的に五音音階や四・五度和音で構成さており、中央アジア的な響きが曲を支配しています。冒頭は玄奘の天竺への思い、旅の意志が力強く表現されています。それから先は一人旅故の不安、孤独からくる静かな音楽、それでも前へ進もうとする強い意志を表す音楽、またしても静かな音楽と曲は進行していきます。このあたりには玄奘の葛藤している心情がよく表現されています。 曲は一転して賑やかな音楽となります。オアシス都市に到着したのです。それまでとは打って変わって、ややアップテンポ気味に、活気ある音楽が展開されていきます。曲の最後では、冒頭に低音楽器を中心に提示された「玄奘の天竺への思い、旅の意志」の音型が再び提示され、玄奘が旅の決意をより強固に、新たにしたところで曲は終わります。 前半と後半で曲の性質が違うように聞こえますが、「玄奘の心情と、中央アジアの雄大な自然」を基本イメージとして曲は構成されています。 (第31回サマーコンサート) |