Graham, Peter – ピーター・グレーアム
ハリソンの夢
- ●原題:HARRISON’S DREAM
- ●グレード:6
- ●演奏時間:約14分
- ●第46回定期演奏会
この曲は、2000年度全英ブラスバンドコンテストの課題曲として委嘱を受け、同時に米国ワシントンの空軍バンドからの依頼により同じ曲を吹奏楽として改編したものである。曲のタイトルは、イギリスの時計職人ジョン・ハリソン(1693~1776)の物語から取られている。
1707年10月22日午後8時、イギリスの軍艦“アソシエーション”はシシリー島の沖で座礁、沈没し、乗員1621人が遭難した。英国政府は今後こうした悲劇をなくすため、2万ポンドの賞金を出して、船の位置を正確に測る事の出来る計器の発明を募集することにした。ジョン・ハリソンの本職は大工であったが、独学で時計も作り、その技術を応用して40年も研究し、ついに海上で正確に経度を測定できる計器を開発した。
グレーアムはこのハリソンの物語を題材にしたイギリスの作家デーヴァ・ソベルの小説、『経度』からヒントを得て作曲した。したがって、この曲は遭難の悲劇とハリソンの工房の忙しさが中心に描かれ、その間にハリソンのロマンチックな夢を表す音楽や亡くなった人たちを葬る音楽が入りまじって構成されている。
音楽は3部形式である。
第1部
遭難の混乱とハリソンの工房の様子を速くにぎやか な音楽で描き、途中、バスーンやホルンの旋律に導かれて現れる、少しゆっくりし たテンポのオーボエの旋律は、ハリソンの性格を表現している。
第2部
ゆったりしたテンポでオーボエのソロが死者を葬る。ここでは特にハープの伴奏によるホルンのソロが印象的だ。このホルンの旋律は木管でも繰り返され、やがてたくさんのベルの自由なサウンド・クラスターの部分となり、ゴングを水に浸ける特殊な効果音も聴かれる。
第3部
第1部の再現で、最後にもう一度、死者をしのぶホルンの旋律が現れて曲 を閉じる。
実に計算し尽くされた数学的な韻律や、めまぐるしくうごめく木管群などまさに 超絶難度の曲であるが、作曲背景からするとその「困難さ」は必然であろう。ハリ ソンの挑戦、作曲者の挑戦を熱く感じて頂きたい。
(第46回定期演奏会)