Robert Beaser – ロバート・ビーザー

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マンハッタン・ロール

  • ●原題:Manhattan Roll
  • ●グレード:
  • ●演奏時間:
  • ●第39回サマーコンサート
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 ロバート・ビーザー (1954~)はアメリカの作曲家で、吹奏楽のみならず様々な編成の音楽を世に送り出している。ビーザーは音楽一家に生まれたわけではなく、物理学者の父と化学者の母によって育てられたが、16歳でローマのアメリカンアカデミーが贈るローマ賞を史上最年少で受賞するなど若いころから音楽家としての才能をあらわしていた。1986年には彼の名を世間に知らしめた “Mountain Song” でグラミー賞のベストコンテンポラリー部門にノミネートされている。

『マンハッタン・ロール』は、1998年にアメリカ5大オーケストラのひとつといわれるニューヨークフィルハーモニックの設立 150 周年記念に委嘱を受け作曲、初演された。吹奏楽版にアレンジされたのは2010年で、ミズーリ大学カンザスシティ校の音楽教授兼吹奏楽団の指揮者であるスティー ブン D. デイヴィスから委嘱を受けミッドウェストバンドクリニックで初演された。曲名はニューヨークの文化の多様性とエレクトリックな様式を示しているが、実はアメリカの中華料理レストラ ンにある多様な文化を折衷した巻きずしのメニュー名である。

この曲は、ビーザーが湿度の高い夏の夜に車でマンハッタン北部のラテン系住民居住地域を運転していた時にインスピレーションを受けて作られた。彼は運転中に車の窓を開けてポップラジオを聴いていた時にニューヨークのすべてが自分の周りで振動しているように感じたという。また彼は作曲期間中に数多くのラテン音楽に触れる機会があり、そこでアメリカ人作曲家としての多様なルー ツを感じ、曲において多様な文化の融合を示そうと試みた。曲中に出てくる3拍子と2拍子が入り 混じったポリリズムは、ラテン音楽のジャンルの1つであるホローポからアイディアを得ている。 ホローポとはベネズエラにルーツを持ち、速くて陽気なリズムのもとで男女が激しく踊る音楽であ る。また、多様なパーカッションを用いることでラテンの風味を強めている。この様なラテン風のリズムと人工的な音階によ調性音楽の形式という、2つのアイディアの一風変わった融合がこの曲の主眼である。

曲は騒々しく幕を上げると同時に、曲全体を支配するラテン風のポリリズムが提示されリズミッ クな音楽が進行する。やがて落ち着きを見せ、夜想曲を思わせるような伴奏のもとで美しい旋律が第二主題として奏でられる。徐々にリズミカルになると再び冒頭のポリリズムが出現し、第二主題の断片を繰り返して展開していく。騒がしさが増す中で高音楽器によって鋭く繰り返されるリズム、 次いで上昇していく低音楽器と中音楽器によるヘミオラが現れる。これらのエネルギーが組み合わさり劇的に停止するまで前進を続ける。第二主題が再現されたのち、ニューヨークの喧騒を表すようにこれまでのテーマが積み重ねられ終焉する。

(第39回サマーコンサート)

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